猛暑の8月ですが、夜には虫の声が聞こえてくるようになりました。
[早稲田学報」8月号のサークル活動報告欄に、「南の島に雪が降る」の映画鑑賞会の記事が載っていました。三木のり平やフランキー堺をはじめ、有名なコメディアンたちが大活躍の名画ですが、この映画のもとになったのがこの本です。
戦後16年を経て、記憶が薄れないうちにと執筆した本がベストセラーになり、映画化もされたそうです。
昭和18年10月、前進座の役者として舞台に立っていた加藤大介は、召集令状を受けて世田谷の陸軍第2病院に配属され、豪徳寺に分宿して隊列を整え、大阪より戦地に出発します。どこにゆくかは知らされていません。船上で旧知のジャーナリスト杉本大尉と邂逅し、行き先が西ニューギニヤのマノクワリであることを知らされます。そこは東ニューギニヤで日本軍が大敗を喫した激戦地だったところでした。
開戦から3年がすぎて日本は制海権を失いつつあり、地雷の攻撃を避けながら12月に現地に到着します。日本の梅雨のような蒸し暑い気候の戦地で飢えとマラリアに苦しめられる生活が始まります。兵士達の士気を鼓舞するための情操教育として演劇分隊を作ることを命じられた著者は、芝居をやるために必死になって持てる力を最大限に発揮して立派な劇団を作り上げました。
以下様々なエピソードが語られていますが、どれも心に響く話なのは、戦争という非日常の世界で日常を生きるために全力を尽くすことが、歓びとなるという人の心理の自然な流れが読者に伝わってくるからかもしれません。文章は読みやすくて品格のある人物描写力は、登場人物を生き生きと描き出し才能を感じます。
戦争文学のジャンルに属する本作品は、戦争のことを知るためにも良いかと思います。
以上ご紹介いたします。
2024年8月
北垣 紀子/記